電磁気あれこれ 5. 電磁エネルギーの移動

 1.素朴な疑問
 電磁場のエネルギーは空間中に蓄えられています。電磁場が時間的に変化しないときはこのエネルギーの空間分布も変化しません。ここで一定の速度-vで運動している観測者から眺めた場合この電磁エネルギーがどのように見えるかを考えます。電磁エネルギーは単位体積あたり次のように表されます。
ここに は電場と磁束密度で、ε0 μ0は真空中の誘電率と透磁率です。運動している観測者から見れば電場や磁束密度が相対的に速度で移動しているように見えますので、それに伴なって電磁エネルギーも速度で伝播しているように見えるはずです。単純に考えて速度が光速に比べて充分小さい場合単位面積あたりのエネルギーの流れは、
となるように思われます。このエネルギーの流れはポインティングベクトルによるものと考えられますので運動している観測者の座標系で確かめてみます。 まず電場だけがあるとします。これを運動している観測者から見ますと、速度が光速に比べて充分小さいとしていますので、電場は同じように見えますが磁場が運動の効果として出てきます。この磁場を電場と速度で表すと、
となります。これを使ってポインティングベクトルを計算すると次のようになります。
ここで、
の関係を使っています。この式を少し書き換えると次のようになります。
ここで電場の単位体積あたりのエネルギーとマックスウェルの応力テンソル、
を使うとこの式は次のように書けます。
この式は簡単な考察から予測した(1−1)式と比べて右辺第2項が余分に追加されています。このような項がなぜ現れたかというのが素朴な疑問です。
 これについて考える前に、最初磁場だけがあるとした場合にも同様の結果が得られることを示しておきます。運動している観測者が見ますと、速度が光速に比べて充分小さいので磁束密度は同じように見えますが運動の効果として次のような電場が出てきます。
これを使ってポインティングベクトルを計算すると次のようになります。
この式をさらに変形すると、
となります。ここで電場の単位体積あたりのエネルギーとマックスウェルの応力テンソル、
を使うとこの式は電場の場合とまったく同じように次のように書けます。

 2.球対称な電場の場合
 ここでは具体的な例として原点に置かれた球対称な電荷 が作る電場について考えます。この電荷が作る電場は中心から放射状に広がっていますので運動している観測者から見れば、ポインティングベクトルの方向はこの電場と垂直になりエネルギーの流れは原点を中心とした球面に沿うことになります。観測者はz方向に速度速度−で運動しており観測者の座標系と静止座標系とがある時刻で一致したとします。このとき電場は両座標系において、
となります。ここには観測点の位置ベクトルです。運動する観測者から見た電磁エネルギーの流れを計算するために円筒座標で表現します。エネルギーの流れがz軸に対して対称となるからです。z軸とのなす角をθとし、z軸と垂直な座標をrとすれば
(1−4)式は次のようになります。
ここにEはの絶対値で(2−1)式より、
となるので原点を中心とする球面上では一定の値となります。この球面上のz座標の一番大きな点を北極、一番小さな点を南極とすれば(2−2)式はエネルギーが南極から北極に向かって経線に沿って移動しており、その大きさがsinθに比例するために赤道付近が一番大きく極に近づくにつれて小さくなっていることが分かります。 この具体的な例で分かるように電磁エネルギーの流れは当初予想した簡単な流れとは大きく違っています。

 3.連続体中のエネルギーの移動
 電磁場に関するエネルギーの流れの議論から(1−7)式や(1−11)式を導いたのですが、力学的な応力とエネルギーの流れについてもこの式と同じ関係があります。 ここで、流体や固体を連続体とみなすとその運動方程式と連続の方程式は次のようになります。
ここにρは密度、viは速度、σijは応力テンソルです。(3−2)式に、viを掛けて
(3−1)式に加えると次の式が得られます。
次に(3−1)式にviを掛けて和をとり変形すれば、
となりますが、(3−2)式を使うと、
となります。ここで歪速度、
と応力テンソルが対称であることより次の式が得られます。
この式は連続体の運動エネルギーの保存則を表しています。この式の右辺第2項は連続体が変形によって受けるエネルギーを表しており、連続体の単位体積あたりの内部エネルギーをuと書くと次の関係があります。
したがって、単位体積あたりの全エネルギーを、
と書けば(3−6)式は次のようになります。
この式を変形すれば次の式が得られます。
これより単位面積あたりのエネルギーの流れは、
となります。この式はこの節の最初で言ったように電磁エネルギーの移動を表す
(1−7)式や(1−11)式とまったく同じ形をしています。
 ここで連続体中の閉領域を考えます。この境界面から単位時間に流出するエネルギーはこの面に外向きにとった単位法線ベクトルをとすれば(3−11)式より次のようになります。
この式の右辺第1項は連続体とともに移動するエネルギーを表しています。第2項はこの境界面が対向する面から受ける単位面積あたりの力が、
であることから、
となり、境界面に働く力を通して流出するエネルギーであることが分かります。

 4.電磁エネルギーの移動について
 連続体のエネルギーについて見てきたのですがここで電磁場に話を戻します。問題は電磁場のエネルギーの移動を表すポインティングベクトル、
の右辺第2項をどのように解釈するかです。この場合も連続体の場合の(3−13)式のようにエネルギーの流れがある境界面において、
が面同士が互いに力を及ぼす単位面積あたりの力と解釈することができるのでしょうか。電磁場を考える場合このような境界面は先の例でも分かるように真空中に存在しています。 とすると真空中において仮想的にとった面が連続体の場合と同様に内力でつりあっており電磁場の移動があるときはこの力による仕事を通してもエネルギーの流れがあるという解釈になります。
 電磁場が存在するときは真空中に仮想的にとった面にも電磁力が働くというのは想像することは難しいのですが、電磁場のエネルギーや運動量が真空中にも存在することを認めたときからの自然な帰結のようにも思えます。 因みにこの面に働く電磁力はそこに誘電体や磁性体を置くことによって測定することはできません。測定される電磁力と比較するためには必ず力を受ける対象を取り囲む閉曲面でマックスウェル応力を積分する必要があり、今回議論した面力はキャンセルしてゼロになるからです。