電磁気学入門 8. 電磁場のエネルギーと運動量

 今回は、物質中の一般的な電磁場の基礎方程式であるマックスウェルの方程式より得られる保存則について議論します。そのために第 6 章で得られたマックスウェルの方程式をもう一度示しておきます。
また、次の関係も成立します。
ここで次のベクトルの恒等式を考えます。
この式は単なる数学的な恒等式ですからなんの物理的意味も持っていません。この式の右辺にマックスウェルの方程式(1)、(4)式を代入すると、
となるので(7)式に代入すると、
となります。この式を少し変形すると次式が得られます。
いま物質の存在しない領域を考えると、この式は次のようになります。
ここで
と書くと、
となります。この式は、U の時間変化が右辺の第一項および第二項にって表されることを示しています。右辺第一項は電場が電流に与える単位体積あたりのエネルギーつまり電磁場のエネルギー変化なので、(10)式の U は真空中における単位体積あたりの電磁場のエネルギーと解釈できます。次に電流も存在しない領域 V で(11)式を空間積分すれば、
となります。ここで空間積分と時間積分が交換できることと、ガウスの発散定理を使うと上の式は次のようになります。
ここで、S は領域 V の境界面であり n はこの境界面に外向きにとった単位法線ベクトルです。U が真空中における単位体積あたりの電磁場のエネルギーであることより、この式の右辺の積分は単位時間あたりにこの領域 V から境界面 S を通って出て行くエネルギーを表すことになります。これから
は単位面積当たりを単位時間あたりに通過する電磁場のエネルギーを表していることになります。この考えを拡張して(8)式は物質がある場合においても電磁場のエネルギーに 関する保存法則を表していると考えます。まず(8)式の左辺を(5)、(6)式を使って真空の場合と同様に書き直すと、
となります。これより(8)式は次の二通りの式に書くことが出来ます。
真空の場合は電磁場の単位体積あたりのエネルギーを(10)式のように、
と書いても、
としても同じだったのですが、物質中ではこれらの量は明らかに異なります。ところで(13)式や(14)式の右辺第二項と第三項は物質の存在によって追加されたのでこれらの項は電磁場が単位時間に物質に与えるエネルギーとして解釈することが出来ます。物質に与えられるエネルギーはこの物質の内部エネルギーの変化と考えられますので、(13)式からは物質の単位体積あたりの内部エネルギーを U 1' と書けば、
が得られます。同じように、(14)式からは物質の単位体積あたりの内部エネルギーを U 2' と書けば、
(18)式もしくは(20)式は電磁場の作用を受けている物質の内部エネルギーに関する式ですが、断熱的な変化のみを考えた特殊な場合を示しています。いまこの物質が単位時間あたりに単位体積あたりに受け取る熱量を ∂Q /∂t とすれば、これらの式は次のように拡張することが出来ます。
さらにこれらの式は次のような熱力学的な表現で書くことも出来ます。
ここで、δQ は完全微分ではないので微分記号 d ではなく δ を使っています。この物質の単位体積あたりのエントロピーを S とすれば、準静的な変化において次式が成立します。
ここまでの議論より、電磁場のエネルギーと物質の内部エネルギーと分けて考えた場合このような二種類のエネルギー保存則の表現が得られたのですが、電磁場のエネルギーと物質の内部エネルギーをあわせたものを新たに U と書けば、
となるので、(17)式および(19)式より次の U の保存則が得られます。
ここでの議論は、マックスウェルの方程式から得られる保存形式のみに着目して話を進めてきたので、電磁場のエネルギーや内部エネルギーなどの定義をはっきりと行っておりませんでした。従って、このような電磁場のエネルギーの表現に対する任意性が出てきたのですが、両方の和については(26)式の保存則が成り立ち、エネルギーとしての意味を持つ結果が得られました。また内部エネルギーとして考えてきた dU1'、dU2' も熱力学関数と考えれば、内部エネルギーという表現を使わなくても熱力学的な考察を行う上で問題はありません。ちなみに、(23)式から(24)式を差し引けば、
となるのでこれらの関係は次のようになります。
ただし、φ は電場や磁場によらない量です。
 次に電磁場が物質に力を及ぼした場合の運動量の保存則について考えます。この議論より電磁場の運動量という概念が定義され、この運動量と物体の力学的運動量との和が保存されることが示されます。
 いま電気的に中性な物体が電磁場の中に置かれた場合を考えます。このときこの物体が電磁場から受ける力は第 7 章で述べたように次のようになります。
電気的に中性な物体が電磁力を受けるのはおかしいように思われるかもしれません。しかし、通常の物体は莫大な数の原子から構成されており、これらの原子はプラスの電荷を持った原子核とマイナスの電荷を持った電子から出来ていることはよく知られています。したがって全体としては中性であってもミクロに考えると電磁場によって複雑な影響を受け、その結果全体とし電磁力を受けることがあるのです。今このような物体として高周波回路やアンテナを考えますと、電磁波の吸収や放出により電磁場から何らかの力を受けると考えられます。この時(28)式の右辺第二項はゼロと考えることが出来ます。なぜなら、積分領域 V は十分大きくとることが出来、境界 S はいま考えている物体から十分遠方であると考えることが出来るからです。この物体が電磁波を放出または吸収した影響は、光速以上の速さで伝わることが出来ないので、境界 S 上の積分はこの時点でゼロでなければなりません。したがってこの式の右辺第二項の積分は物体が電磁波の吸収や放出によって受けると力として考えることは出来ません。これより物体の受ける力は、
となります。電磁波の放出や吸収が時刻 t 1 から t 2 の間におこったとしますと、物体の得た運動量 ΔP は次のようになります。
t 1 以前または t 2 以降は物体は電磁場より力を受けないと考えていますので、(29)式より、
が成立します。したがってこの期間、
は一定に保たれることになります。(30)式、(32)式より、
となります。この式は PEM を電磁波の運動量と考えれば、物体と電磁場を含めた全体としての運動量保存則が成立することを示しています。また(31)式より物体と電磁波の間にやり取りがない場合は電磁波の運動量は単独で保存することが分かります。
これより電磁場は真空中で単位体積あたり、
の運動量を持っていると考えることが出来ます。ここに c は真空中の光速です。
 一方電磁波のエネルギーの流れは(12)式より単位時間単位面積当たり、
ですから、単位体積あたりのエネルギー u は次のようになります。
これより電磁波のエネルギーと運動量の大きさ p は、
の関係を持つことになります。