電磁気学入門 6. 電磁場の基礎方程式

 前回までに得られた電場と磁場に関する方程式をまとめると以下のようになり ます。
ただし、
です。また、電気伝導率Jの導体内部ではオームの法則を使って電流密度を次のように書くことが出来ます。
 ところで前回の終わりにも述べたように電荷が生成も消滅もしないという経験的な事実があります。これはある領域 V を考えたときここから流れ出す電流によって運ばれる電荷の量と、この領域 V で減少する電荷の量が等しいというように表現することが出来ます。この領域 V を取り囲む閉曲面を S、この閉曲面上に外向きにとった単位法線ベクトルを n とすればこの領域から単位時間あたりに流出する電荷量は次のように表されます。
一方この領域で単位時間に減少する電荷の総量は、
となりますから、
が成立します。時間に関する微分と空間積分とはどちらを先に行っても同じなのでこの式は次のように書けます。
この積分領域はどこにとってもこの式は成り立ちますので結局次の式が成立します。
 電荷の生成と消滅がないという経験的な事実は、電荷が保存されることを示しているので電荷保存の法則といい、この式のことを連続の式と呼びます。
ここで、(4)式の両辺の発散を取ると次の式が得られます。
この式と(8)式を比較すると
が成り立ち、ある場所の電荷密度が時間的に変化できないことになります。この結果は明らかに経験事実と反します。(8)式は経験事実をもとに得られたものですから(9)式を導いた(4)式に問題があることになります。このことは(4)式は経験より得られたものであるがあくまで近似式であり、ある微小な項が無視されていることを示しています。
ここで(8)式に(3)式を代入すると次の式が成り立ちます。
空間微分と時間微分の順序を入れ替えてもよいのでこの式は、
となります。この式の括弧の中は発散をとるとゼロとなるという意味で(4)式の左辺と同じ性質を持っています。そこで(4)式の右辺をこの括弧の中の量で置き換えてみますと次のようになります。
この式の両辺の発散を取れば連続の式が得られることは、今までの議論で明らかです。この式は、経験的に得られた方程式ではないので、電磁場に関する正しい方程式であると認めるためには、ここで付加した右辺第一項の存在によって導出される結果を、経験的事実によって確認する必要がありまが、その前にこの式の右辺第一項が第二項に比べて非常に小さいことを示します。そうでなければ(4)式が近似的に成り立っているという経験的な事実と矛盾することになります。
 今、場が時間的に一定の周波数 f で振動しているものとしますと、第一項は、
となります。
一方、通常の金属例えば鉄とか銅では、電気伝導率 σ は 107〜108−1m−1] 程度ですから第二項は(7)式を使い、
と書けます。これより第一項と第二項の比は、
となります。ここで誘電率として真空の誘電率を使うと、
程度となるので、第一項と第二項の比は次のようになります。
これより導体内部において、第一項は第二項に比べて非常に小さく無視できることが分かります。真空中においては第二項はゼロとなるので、第一項を無視できないように思われるのですが、その大きさを見積もると、電場の強さを 1[V/m] 程度として
ここで周波数を 100MHz とすればこの値は 5.6×10−3[A/m2] となりますが、この値は、導体を流れる電流が、1×106[A/m2] 程度であることを考えると非常に小さく、これによって発生する磁場は通常無視することが出来ます。この事実があるからこそアンペールの法則すなわち(4)式がまず実験事実として確立されたのです。
 さて、ここで(10)式の右辺第一項の存在によって導出される結果を経験的事実によって確認することにします。まず真空中での電磁場のふるまいを考えますと、電流も電荷も存在しないので(3)式および(10)式は(5)、(6)式を使って、
と書けます。もしアンペールの法則に対する修正項がなければ(12)式の右辺がゼロとなりますので(12)式は次のようになります。
この式は磁場があるスカラー関数の勾配として表されることを示していますので、
とかけます。この式と(2)式より、次のラプラス方程式が成立します。
考えている領域が十分大きく境界で磁場がゼロとすれば、上の式よりこの領域全域で磁場がゼロとなります。そうすれば(1)式の右辺も消えるので同様の議論からこの領域では電場もゼロとなります。すなわち、電荷や電流から十分離れたところでは電場も磁場も存在しなくなります。このことは一見経験事実と一致している用に思われます。
 それでは(12)式の右辺がある場合はどうなるでしょうか。この場合は明らかに上の議論は成り立たないので、電磁場がゼロとなるとは限りません。まず(1)式の両辺の回転をとると、
となります。ベクトル解析の関係
と、(12)式を使って変形すれば、
となり、さらに(11)式を使うと結局次の式が得られます。
同様にして、(12)式の両辺の回転をとることにより次の式を導くことが出来ます。
(14)式および(15)式は波動方程式であり、波の位相速度 c
となります。この結果は驚くべき結果であり、電荷も電流もない真空の中を電場、磁場が波として伝わっていくことを示しています。またその波の速度を真空の誘電率と真空の透磁率を使って計算すると、
となります。これは真空中の光の速度に一致します。そこで、マックスウェルは光は電磁場の波すなわち電磁波であると考えたのです。電磁場が実際波として伝わることを実験的に示したのは、ヘルツという物理学者です。
 アンペールの法則に理論的な考察から追加した修正項は、この法則の精度にはほとんど効いてこないことを定量的に示したのですが、この項の追加によって電磁波の存在を示すことが出来ました。またこの波の速度が光の速度と一致することより、光も電磁波の一種であることが予想されたわけですが、このことは現在実験的にも確認されています。これよりアンペールの法則は(10)式のように修正されないといけないことが経験的事実として示されました。
 以上の議論より、物質中の電磁場の基礎方程式は結局(1)、(2)、(3)式および(10)式となることが分かります。これらの方程式はマックスウェルの方程式と呼ばれており、ニュートンの運動方程式が力学の基礎となっているように電磁場の基礎となっています。ここにこの方程式をもう一度まとめて書いておきます。
 ここで電磁場の基礎方程式が得られたので、今後この方程式を使って電磁場の性質についていろいろな議論をしていく予定です。第2章で電荷や電流が電磁場から受ける力を議論したのですが、次回はこの議論を発展させて誘電体や磁性体などの物質が電磁場から受ける力について考えていきたいと思っています。