静磁場解析 ヒステリシスを考慮した磁界シミュレーション

概 要

コンピュータや解析技術の進歩により、磁場解析が設計や開発現場で広く利用されています。

磁場解析で使用する物性値として、磁性体の磁化特性がありますが、線形(比透磁率)や非線形(B-H曲線)の利用が多いと思われます。 線形は比透磁率を数値で入力し、非線形はB-H曲線を磁束密度(B)と磁場の強さ(H)の点列で入力します。

ここで、非線形で使用するB-H曲線はヒステリシスを含みません。初期磁化曲線を点列で使用することになります。 保磁力が小さければ、良い近似と考えられます。つまり、H=0のときに残留している磁化は小さいと考えます。 従って、Hを大きくした後、今度はHを小さくしても同じ経路をたどります。実際はヒステリシスがありますが、 考慮しなくても、概ね良好な結果が得られています。ヒステリシス損の計算も必要とされていますが、ヒステリシスを 考慮していないB-H点列を使用した非線形計算を基に、経験式を使用した後処理によって求める方法が利用されています。


      図1−1.磁気特性の模式図

一方で、保磁力が大きい場合は、図1−2のように、H=0のときも大きい磁化が存在するので、無視することはできません。


  図1−2.磁気特性の模式図(保磁力が大きい場合)

また、保磁力が小さい軟磁性体において、小さいながらも残留する磁化を問題にする場合や、特に、ヒステリシスに起因する損失、 いわゆるヒステリシス損を厳密に評価するためには、ヒステリシス現象を数値計算に適用するためのモデル化が必要になります。

これまでにヒステリシスのモデル化は数学的モデルで利用されていますが、ヒステリシス曲線の表現力やベクトル化(磁気異方性)を考えますと、 まだ不十分です。ミクロな領域で計算する手法もありますが、電気機器のようなマクロな対象に適用することは計算量の観点からしても、 実用的ではないと考えられます。磁場解析が開発されてから30年近く経ちますが、通常の非線形計算に比べるとヒステリシスを考慮した シミュレーションはハードルが高いといえます。

弊社が開発した「自由エネルギーを用いたヒステリシスモデル」は熱力学的考察によって得られた磁性体の自由エネルギーと磁壁の移動を 摩擦モデルとして、取り込んだ手法で、数学的モデルではなく、物理学に即したものです。

ここでは、詳しい原理を省略しますが、ご興味のある方はご連絡ください。
理論をまとめた資料(電気学会研究会資料)を送付させて頂きます。

計算速度を考えますと、連立方程式の解法であるICCG法や非線形計算のニュートンラフソン法のように、これまでに実績のある手法を 利用したいところです。さらに、ヒステリシスを考慮しない通常の非線形計算と計算ボリュームが同程度あることが望ましいです。

「自由エネルギーを用いたヒステリシスモデル」はICCG法やニュートランラフソン法がそのまま利用でき、マイナーループを含めた ヒステリシス曲線の表現力向上、ベクトル化(磁気異方性)に対応できる手法です。
ヒステリシスの解析では入力データの用意が大変と思われがちですが、本機能はメジャーループの点列を使用するだけで、 マイナーループも表現でき、異方性を考慮する場合は3方向のメジャーループのデータを用意すれば解析できるなど、 入力方法もシンプルで、使い勝手の良い手法です。

以下に、本手法を利用した計算例をご紹介致します。

解析事例1

数式で表現できるヒステリシス曲線をシミュレーションで再現できるかどうか確認します。 一成分に着目して解析を行いました。

解析モデルを図2−1に示します。Z方向の磁場のみ存在できる簡易モデルです。


             図2−1.FEM解析モデル



  図2−2. 数式で表現したヒステリシス曲線をシミュレーションにより再現

「シミュレーション」はFEM解析で得られた磁化Mと磁場の強さHを示します。

良好な結果が得られています。

解析事例2

回転磁場におけるヒステリシスの挙動を調べます。

検証モデルを図3−1に示します。電気学会調査専門委員会で提案された田形コアモデルを使用しました。


           図3−1.田形コアモデル


田形コアの中心で磁場が回転するようにコイルの電流を設定しました。

また磁性材料はSPCCを使用しています。メジャーループの数値データのみを使用し、等方性としました。

図3−1と図3−2に磁束密度ベクトルの例を示します。中心部分を見てみますと、図3−1では右向きだったベクトルが 図3−2 では反時計周りに回転していることがわかります。


          図3−2.磁束密度[T]ベクトル図の例



          図3−3.磁束密度[T]ベクトル図の例


このようにして、磁場を回転させ、磁束密度と磁場の強さの軌跡を評価します。

コア中心の要素に着目し、図3−4に磁場の強さの軌跡を示します。横軸は磁場の強さHのx成分、縦軸を磁場の強さのy成分としています。


    図3−4.ヒステリシスを考慮したときの磁場の強さの軌跡


同様にして、図3−5に磁束密度の軌跡を示します。横軸は磁束密度のx成分、縦軸は磁束密度のy成分です。


    図3−5.ヒステリシスを考慮したときの磁束密度の軌跡


図3−4と図3−5から磁束密度と磁場の強さの位相がずれていることからヒステリシスが表現されていることがわかります。 さらに、磁束密度ベクトルと磁場の強さのベクトルとの位相に着目したグラフを図3−6に示します。


           図3−6.位相角[度]


次にヒステリシス損を図3−7に示します。以下に示す損失は実際にヒステリシスループの積分することによって、計算しています。


           図3−7.ヒステリシス損


各時刻ステップのヒステリシス損分布が得られます。
ヒステリシス損のアニメーションを図3−8に示します。


        図3−8.ヒステリシス損[W/m^3]分布 アニメーション


●最後に
本解析事例では「自由エネルギーを用いたヒステリシスモデル」をご紹介致しました。
ヒステリシスを考慮した磁場解析にご興味ある方、是非お問い合わせください。

参考文献

池田文昭:「自由エネルギーを使ったヒステリシスモデル」,  電気学会静止器・回転機合同研究会資料,SA-13-70,RM-13-84(2013)

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